ニュー太郎
今回は石炭火力発電がどのように変わろうとしているのかを
わかりやすく解説します。
今回はその第2弾です。
石炭火力発電のフェードアウト(徐々に少なくしていくという意味です)が計画されているのは知っていますか?
既に政府から方針が示されており、石炭火力発電が生き残るためには、
高効率化や燃料転換(LNG、水素・アンモニアなど)が必要になります。
今回はこの高効率化の動きとして、石炭ガス化複合発電(IGCC)、石炭ガス化燃料電池複合発電(IGFC)を解説します。
石炭火力発電の動向を学ぶことは、今後の日本の電源構成を知り、今後の伸びていく(力を入れる)企業を知ることに役立ちます。
企業の技術者として日々業務を行っている私がわかりやすく解説します。
この記事を読むことで、
- 石炭火力発電の高効率化の方式 がわかる
- 石炭ガス化複合発電(IGCC)の概要 がわかる
- 石炭ガス化燃料電池複合発電(IGFC)の概要 がわかる
石炭火力発電のフェードアウト(前回記事まとめと今回の解説内容)
ニュー太郎
まずは、簡単に概要をおさらいします。
その後で今回の解説内容を述べます。
【前回記事まとめ】石炭火力発電の政府の方針
前回記事のまとめ
- 日本の2030年度電源構成として、石炭火力発電の比率は19%を目指す(現状の32%から▽13%低減)
- 非効率石炭火力発電はフェードアウトを行う計画であり、石炭火力発電の発電効率目標43%、亜臨界圧(SUB-C)、超臨界圧(SC)はフェードアウトの対象
- 現在も稼働する石炭火力発電所のうちの約5割は非効率(超臨界圧(SC)以下)な発電方式
- 各電力会社は石炭火力発電の高効率化、LNGや水素・アンモニアへの燃料転換といった記載が多い
ニュー太郎
前回の記事で解説していますので、
詳細はこちらをご覧ください。
【今回の解説内容】石炭ガス化複合発電(IGCC)、石炭ガス化燃料電池複合発電(IGFC)
石炭火力の発電方式には、前回ご紹介した亜臨界圧(SUB-C)、超臨界圧(SC)、超々臨界圧(USC)の他に、
石炭ガス化複合発電(IGCC)、石炭ガス化燃料電池複合発電(IGFC)という方式があります。
IGCC:Integrated Coal Gasification Combined Cycle
IGFC:Integrated Coal Gasification Fuel Cell Combined Cycle
これらの方式は、超々臨界圧(USC)よりも更に高い発電効率であり、注目が高まっています。
今回は、この2つについて解説していきます。
非効率石炭火力発電をどうする?フェードアウトへ向けた取り組み
2020-11-06 資源エネルギー庁
https://www.enecho.meti.go.jp/about/special/johoteikyo/hikouritu_sekitankaryoku.html
大崎クールジェンプロジェクト
大崎クールジェンプロジェクトは、中国電力株式会社と電源開発株式会社の共同出資会社である大崎クールジェン株式会社にて実証事件が実施されています。
実施場所は、中国電力(株)大崎発電所構内(広島県豊田郡大崎上島町中野6208番1)です。
このプロジェクトは、3段階で構成され、
第1段階では、高効率発電技術である「石炭ガス化燃料電池複合発電(IGFC)」の基盤技術である「酸素吹石炭ガス化複合発電(酸素吹IGCC)」の大型設備実証試験を実施済です。
第2段階では、酸素吹IGCCにCO2分離回収設備を付設した「CO2分離・回収型酸素吹IGCC」の実証試験を実施継続中です。
第3段階ではさらに燃料電池を付設した「CO2分離・回収型IGFC」の実証中です。
大崎クールジェンプロジェクトの概要 大崎クールジェン株式会社
https://www.osaki-coolgen.jp/project/overview.html
石炭ガス化複合発電(IGCC)
ニュー太郎
石炭ガス化複合発電(IGCC)については、
三菱重工のHPから内容を解説します。
システム構成
石炭ガス化複合発電(IGCC)には、空気吹きIGCCと酸素吹きIGCCがあります。
各々のシステム構成、発電効率の特徴、今後の展開を見ていきましょう。
空気吹きIGCC
システム構成
空気吹きIGCCは石炭のガス化反応に空気を用いています。
石炭は、まずガス化炉で空気をガス化剤として石炭ガスに転換されます。
空気吹きガス化炉は、供給された石炭をガス化剤と反応させて、一酸化炭素(CO)と水素(H2)を主成分とする高温の可燃性ガスを生成します。
石炭ガスは、ガス精製設備でガスタービンの適用燃料基準および排ガスの環境基準に適合するよう脱硫・脱じん処理され、“精製ガス”として複合発電設備に供給されます。
複合発電設備では、精製ガスを燃料としてガスタービンを駆動して発電を行い、さらにその燃焼排ガスの熱を排熱回収ボイラー(HRSG:Heat Recovery Steam Generator)で回収し、水と熱交換することで蒸気を発生させ、蒸気タービンでも発電します。
また、ガス化炉後流の熱交換器で、高温の石炭ガスを冷却する際に発生する蒸気をHRSGに合流して蒸気タービンでの発電に使用しますので、より効率的な発電が可能です。
空気吹きIGCCの特徴
高い発電効率(送電端効率)
IGCCは従来の石炭火力発電(ランキンサイクル)から複合発電(ランキンサイクル+ブレイトンサイクル)になることにより発電効率が向上します。
ニュー太郎
これまで蒸気タービンのみであったため、ランキンサイクルでしたが、
ガスタービンのブレイトンサイクルとを組み合わせることで
発電効率が向上するというものです。
この説明は、GTCC(ガスタービンコンバインドサイクル)と同じです。
また、空気でガス化することにより、酸素製造に要する動力を低減できるため、送電端効率が高くなります。
さらに、天然ガス焚きGTCCと同様にガスタービン燃焼温度の高温化により発電効率が向上しますので、天然ガス焚きGTCCで実績のある1,600℃級ガスタービン、開発中の1,700℃級ガスタービンの適用により、IGCCの効率向上も期待できます。
インテグレーション(統合)
空気吹きIGCCでは、次の様なインテグレーションを行い、性能向上を図っています。
- ガス化用空気は、ガスタービンの空気圧縮機より抽気して、さらに抽気空気圧縮機で必要圧力まで昇圧して使用します。
- HRSG給水を抽気し、ガス化炉の熱交換器で発生する蒸気は、再びHRSGの蒸気系統に合流して、蒸気タービンの発電に使用することで、熱を有効利用しています。
- 石炭の乾燥熱源としてHRSGの高温排ガスを使用することで、空気乾燥に比べ酸素濃度が低く安全性が向上するとともに効率低下を低く抑えられます。
実証
空気吹きIGCC技術の実現については、商用化への最終段階として福島県の常磐共同火力(株)勿来発電所構内で、2007年9月より5年半に亘り実証試験が行われました。
試験では発電端出力25万キロワット、送電端効率42.9パーセント(LHV)が得られ、出力・効率共に計画値を十分に満足することを確認しました。
IGCC実証機は、5年半の実証試験で全ての試験項目の完了とともに、商用機設計に必要なデータが全て得られたことから2013年3月末で実証試験を終了しました。
勿来発電所10号機は商用運転開始後、連続運転3,917時間を達成しIGCCとして世界最長連続運転時間を更新しています。
商用化
空気吹きIGCCの次期ステップとして大型のガスタービンを適用した50万キロワット級商用機を標準モデルとして国内外へ展開しています。
商用機では、勿来発電所10号機(旧 IGCC実証機)で得られた知見をフィードバックし、
信頼性と運用性のさらなる向上が図られています。
さらに高出力・高効率化、などの高度化事業研究に取組んでいます。
酸素吹きIGCC
システム構成
酸素吹きIGCCは石炭のガス化反応に酸素を用いています。
石炭は、まずガス化炉で酸素をガス化剤として石炭ガスに転換されます。
酸素吹きガス化炉では、上下段の酸素 / 石炭比の適正化やガス化炉出ロ(絞り部)でのシールガス供給方法の改善などにより、酸素吹きガス化炉の課題を解決しました。
石炭ガスは、ガス精製設備でガスタービン(GT:Gas Turbine)の適用燃料基準および排ガスの環境基準に適合するよう脱じん・脱硫処理され、“精製ガス”として複合発電設備に供給されます。
複合発電設備では、精製ガスを燃料としてガスタービンを駆動して発電を行い、さらにその燃焼排ガスの熱を排熱回収ボイラー(HRSG:Heat Recovery Steam Generator)で回収し、水と熱交換することで蒸気を発生させ、その蒸気で駆動する蒸気タービン(ST:Steam Turbine)でも発電します。
また、ガス化炉後流の熱交換器(SGC:Syngas Cooler)で、高温の石炭ガスを冷却する際に発生する蒸気をHRSGに合流して蒸気タービンでの発電に使用しますので、より効率的な発電が可能です。
酸素吹きIGCCの特徴
高い発電効率(送電端効率)
IGCCは、天然ガス焚きガスタービンの高温化による高効率化技術適用により送電端効率向上を図ることができます。
ガスタービンを用いた酸素吹きIGCC商用機の送電端効率は約46パーセント(HHV)であり、最新鋭の微粉炭火力に比べてCO2排出量を約10パーセント削減できます。
酸素吹き石炭ガス化においては、2.5メガパスカル~3.0メガパスカルの加圧下で、CO2濃度約40パーセントの高濃度CO2含有ガスからCO2を回収できるので(燃焼前CO2回収)、ボイラー排ガスからのCO2回収(燃焼後CO2回収)に比べて処理対象とするガス流量が少なく、CO2回収装置のコンパクト化が可能であると共に送電端効率の低下を抑制できます。
実証実験
大崎クールジェンプロジェクトの第1段階で全ての目標を達成し、プロジェクトを完遂しています。
主な成果
- 実証試験で送電端効率40.8%を結果から、商用機で送電端効率約46%達成の見通しが得られ、現状の最高効率の微粉炭火力(USC)と比べてCO2排出量約15%削減が期待できます。
- 従来の微粉炭火力を大幅に上回る負荷変化率を達成し、導入拡大が進む再生可能エネルギーの急な出力変動にも対応する高い「調整力」を実証しました。
- 亜瀝青炭から瀝青炭まで炭種の異なる石炭での安定したプラント運用を確認しました。
商用化
高発熱量の石炭ガスが製造可能で多用途利用に適する酸素吹きガス化炉について、大崎クールジェンプロジェクト推進と並行して化学原料向けガス化炉の商用化を推進する方針です。
化学原料向けガス化では、
1.CO2循環ガス化による冷ガス効率向上
2.ダイレクトクエンチによる生成ガス冷却及び加湿
3.水蒸気添加ガス化による冷ガス効率向上等の技術検証
を進め、建設費低減と効率向上の両立を目指します。
特にダイレクトクエンチは、熱回収ボイラー削除による大幅な建設費低減が見込まれ、近年、注目されている水素チェーン向けに褐炭から水素を製造するパイロットプロジェクトへの適用も目指して開発に取り組んでいます。
ニュー太郎
ダイレクトクエンチ方式は、ガス化炉出口の高温の生成ガスに水を噴霧して生成ガスを冷却する方式です。
ガス化炉上部熱回収部のコンパクト化、および熱交換器(SGC)削除が可能になるため、
ガス化炉建設費の低減という点から注目されています。
石炭ガス化複合発電プラント(IGCC) 三菱重工株式会社
https://power.mhi.com/jp/products/igcc/?_ga=2.9991664.491806375.1660183457-412564808.1642598963
石炭ガス化燃料電池複合発電(IGFC)
ニュー太郎
石炭ガス化燃料電池複合発電(IGFC)については、
大崎クールジェンプロジェクトのHPから内容を解説します。
システム構成
まず、CO2分離・回収型酸素吹IGCC実証設備において石炭をガス化したガスからCO2を分離・回収後し、得られる高濃度水素ガスを使った燃料電池による発電を行います。
次に、燃料電池では反応しきれずに排出される水素ガス(オフガス)を燃焼して、ガスタービンを回します。
さらにそのガスタービンの排熱で蒸気タービンを回すという、「三度おいしい方式」です。
実証試験目標
固体酸化物形燃料電池(SOFC)を用いた燃料電池モジュール2台を並べ、CO2分離・回収型IGCC設備のCO2分離後の水素リッチガスを供給して発電試験を行い、燃料電池モジュールの基本性能や運用性などについて検証を行います。
500MW級の商用機に適用した場合に、CO2回収率90%の条件で、47%程度の発電効率(送電端、HHV)達成の見通しを得ることが目標です。
スケジュール
NEDOと大崎クールジェン(株)は、革新的な低炭素石炭火力発電技術の確立を目指す「大崎クールジェンプロジェクト」の第3段階に入りました。
具体的には、CO2分離・回収型酸素吹石炭ガス化複合発電(CO2分離・回収型酸素吹IGCC)設備に、MW(メガワット)級の燃料電池設備(SOFC)を組み込んだCO2分離・回収型石炭ガス化燃料電池複合発電(IGFC)の実証試験を、2022年4月18日に開始しました。
第3段階 CO2分離・回収型IGFC実証 大崎クールジェン株式会社
https://www.osaki-coolgen.jp/project/step3.html
石炭ガス化燃料電池複合発電(IGFC)の実証試験を開始 NEDO
https://www.nedo.go.jp/news/press/AA5_101534.html
まとめ
ニュー太郎
- 石炭火力発電には、超臨界圧(SC)より高効率な石炭ガス化複合発電(IGCC)、石炭ガス化燃料電池複合発電(IGFC)がある
- 石炭ガス化複合発電(IGCC)は、空気吹きIGCCと酸素吹きIGCCがある
- 石炭ガス化複合発電(IGCC)は実装試験が完了し、三菱重工(株)では50万キロワット級商用機を標準モデルとして国内外へ展開中
- 石炭ガス化燃料電池複合発電(IGFC)は大崎クールジェンプロジェクトの最終段階(第3段階)として、2022年4月18日に実証試験を開始
ニュー太郎
Part1から通して見ていただくと石炭火力発電の全体が見えると思います!
ご覧いただき、ありがとうございました。
以上、ニュー太郎でした。
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