今回は「CCU」、「CCUS」に関する内容を
わかりやすく解説します。
その第2弾であり、もう少し技術的なことを見ていきます。
2050年カーボンニュートラルに向けて、太陽光や風力発電といった再生可能エネルギー、原子力、水素・アンモニアへの燃料転換といった非化石電源の拡大が必要です。
但し、どうして化石燃料を使用しなければならない、又は総合的な評価で化石燃料を使用した方がよい場合もあります。
そうした場合には、火力発電所の脱炭素化のためにCCUSの活用が必要不可欠です。
今回は「CCS」、「CCUS」の内、共通するCC(CO2分離回収)の技術的な内容を解説します。
法整備や技術的にまだまだこれからの部分が多いので、CCUSの動向をいち早く学ぶことは、今後伸びてくる企業(メーカー)を予測することに繋がります。
日本の戦略を含めて学んでいきましょう!
この記事を読むことで、
- CCS(CCUS)の全体像 がわかる (前回のおさらい)
- CO2分離回収に関する動向とターゲットコスト がわかる
- CO2分離回収方法 がわかる
CCS(CCUS)の全体像
前回記事でCCS、CCUSの用語の説明・位置づけポテンシャル・長期ロードマップを解説しました。
内容を簡単におさらいします。
詳細内容は前回記事をご覧いただければと思います。
CO2分離回収に関する動向とターゲットコスト
前回の概要から、もう少し技術的な点を見ていきましょう。
CO2分離回収に関する動向
現行プロセスは、化学吸着法です。
そこから、物理吸着法、固体吸収法、膜分離法、クローズドIGCC といった方法が研究開発されています。
各技術の内容は、次の章でご説明します。
また、CO2排出源は種類や圧力が多岐にわたるため、各プロセスに対応する分離回収能力を獲得することを目指しています。
ターゲットコスト
現行プロセスである化学吸着法では、CO2分離回収コストは4,000円/t-CO2程度です。
前回の記事で、日本において想定される年間貯蔵量は1.2億トン~2.4億トンとご紹介しました。
そこから、現行のコストで年間にかかるCO2分離回収金額を算出すると、4,800億円/年~9,600億円/年となる計算になります。
現在は、コスト安価化に向けて具体的な目標が定められています。
まず、2030年のターゲットはこちらです。
プロセス | 圧力帯 | CO2濃度 | 適合しうる分離回収法 | ターゲットコスト |
---|---|---|---|---|
燃焼排ガス、高炉ガス など | 常圧 | 数% | 化学吸収法、固体吸収法、物理吸着法 など | 2,000円台/t-CO2 |
化学プロセス、燃料ガス など | 数MPa | 数十% | 物理吸着法、幕分離法、物理吸着法 など | 1,000円台/t-CO2 |
CO2分離回収機能を備えた発電・化学合成システム | – | – | クローズドIGCC・ケミカルルーピング など | 1,000円台/t-CO2 |
2030年から更なる研究開発を進め、2050年までにCO2分離回収コスト1,000円/t-CO2を目指し技術開発を行うとされています。
CO2分離回収コスト1,000円/t-CO2が実現すれば、現行プロセスから1/4になります。
年間にかかるCO2分離回収金額を算出すると、1,200億円/年~2,400億円/年まで圧縮できる計算になります。
CO2分離・回収技術の概要 環境部次世代火力・CCUSグループ 谷村 寧昭氏
2020年度成果報告会
https://www.nedo.go.jp/content/100932834.pdf
CO2分離回収方法
それでは、CO2分離回収方法をもう少し詳細に見ていきましょう。
化学吸収法
化学吸収法とは、「吸収塔」でアミン等のアルカリ性水溶液(吸収液)とCO2含有ガスとを接触させ、吸収液にCO2を選択的に吸収させた後、「再生塔」で吸収液を加熱して、高純度のCO2を分離・回収する技術です。
化学吸収法は、常圧のガスから大量のCO2を分離・回収するのに適した技術です。
COURSE50にて、製鉄プロセスでの適用検討が行わています。
【用語の説明】
COURSE50;革新的製鉄プロセス技術開発のこと。
日本鉄鋼業において、2050年に向けてCO2排出量の約30%削減を目指す共同研究として立ち上げられた。
COURSE50 テクノロジー CO2を分解・回収する技術
https://www.course50.com/technology/technology02/
物理吸着法
物理吸着法とは、流体分子と吸着剤表面との間に働く分子間引力・分散力により、吸着剤にCO2を選択的に吸着させ、減圧操作により、吸着させたCO2を高純度・高回収率で分離・回収する技術です。
物理吸着法は、簡易なシステムでありながらも低エネルギーでCO2を分離・回収できる技術です。
COURSE50 テクノロジー CO2を分解・回収する技術
https://www.course50.com/technology/technology02/
固体吸着法
固体吸着法とは、CO2を固体と反応させて分離回収する吸着分離技術です。
装置の起動停止や運転が簡単なことや、大量の廃液処理が不要なことから、化学的に安定で高性能な吸着剤が開発されれば大幅なコスト低減も期待できます。
化学吸収法よりもCO2の脱離にかかるエネルギー損失(水を加熱するための顕熱、潜熱)が低く、
また、再生時の蒸発による吸収液の損失が少なく、装置腐食性が低い利点もあるとされています。
RITE Today 2020
脱炭素化に向けたキーテクノロジー:CO2分離・回収技術の概要と新たな展開
化学研究グループ グループリーダー・主席研究員 中尾 真一氏ら
https://www.rite.or.jp/results/today/pdf/RT2020_tokushu_j.pdf
「次世代火力発電の早期実現に向けた協議会(第2回会合)」
CO2分離・回収技術 (固体吸収材、分離膜)の開発動向 平成27年6月22日
(公財)地球環境産業技術研究機構 化学研究グループ
https://www.meti.go.jp/committee/kenkyukai/energy_environment/jisedai_karyoku/pdf/002_02_03.pdf
膜分離法
膜分離法とは、圧力差によって分離膜の供給側から透過側へCO2を透過・分離する分離技術です。
膜分離のメカニズムは、大きく分子ふるい機構、溶解拡散機構に分けられます。
分子ふるい機構では、細孔径よりもサイズの小さなガスが選択的に透過します。
一方、溶解拡散機構では、CO2分離膜材料に親和性のあるCO2ガスが選択的に透過します。
膜分離法は、連続操作(再生処理が不要)のため設備がコンパクトになり、また、特に圧力を有するガス源からのCO2分離において、他の分離法に比べ低コストかつ省エネルギーでの分離が可能となります。
一方で、膜分離法は比較的新しい技術であり、CCSのためのCO2分離回収技術としては、化学吸収法や固体吸収法に比べて研究開発が遅れており、ラボ〜ベンチスケールの比較的小規模での検討に留まっています。
RITE Today 2020
脱炭素化に向けたキーテクノロジー:CO2分離・回収技術の概要と新たな展開
化学研究グループ グループリーダー・主席研究員 中尾 真一氏ら
https://www.rite.or.jp/results/today/pdf/RT2020_tokushu_j.pdf
クローズドIGCC
クローズドIGCCとは、酸素燃料技術をIGCC技術に応用し、排ガス中のCO2を酸化剤としてガス化炉やガスタービンに循環させ、コンバインドサイクル発電を行う技術です。
循環CO2によるガス化反応の促進と効率向上を図ることができます。
シフト反応器やCO2分離装置が不要であり、CO2回収後も高い発電効率を維持できます。
次世代火力発電に係る技術ロードマップ 技術参考資料集
次世代火力発電の早期実現に向けた協議会 平成27年7月
https://www.meti.go.jp/committee/kenkyukai/energy_environment/jisedai_karyoku/pdf/004_02_00.pdf
まとめ
最後に、本記事のまとめです。
- 現行のCO2分離回収プロセスは化学吸着法であり、物理吸着法、固体吸収法、膜分離法、クローズドIGCC といった方法が研究開発されている。
- CO2排出源は種類や圧力が多岐にわたるため、各プロセスに対応する分離回収能力を獲得することを目指している。
- 現行プロセスである化学吸収法は、CO2分離回収コストは4,000円/t-CO2程度であり、2050年までにCO2分離回収コスト1,000円/t-CO2を目指し技術開発が行われている。
- CO2分離回収法
今後もCCUSの動向からは目が離せません!
ご覧いただき、ありがとうございました。
以上、ニュー太郎でした。
コメント
DACについて教えて下さい。
①回収コスト:DACによるCO2の回収コストは35円/kg-CO2程度らしいのですが、アミン法などの10倍近くとかなり高価です。将来、どこまで下げられるのでしょうか?
②社会実装:DACはどういう形で社会実装されるのでしょうか?企業主導とも思えません。町や市で行うのでしょうか?掛かった費用は、税金という形で市民から徴収されるのでは、堪ったものではありませんね!
宜しくお願いします。
ご質問いただき、ありがとうございます。
コメントを見ていただいた方の為に、用語の説明をさせていただきます。
DACとは、Direct Air Captureの略で、大気中のCO2を直接回収する方法のことです。
①回収コスト;まず、アミン法などは排ガス中のCO2回収を前提としているため、入り口のCO2濃度が十数%です。
一方でDACは大気中のCO2回収ですので、入り口のCO2濃度は400ppmとなっています。
このことから、円/kg-CO2でDACを評価すると、分母が大きくなるため不利になるということはあります。
ご質問の2050年のDACの目標コストは、2千円台/t-CO2(2円台/kg-CO2)です。
現在のアミン法が4円/kg-CO2ですので、その半値ということになります。
[参考]https://www.meti.go.jp/shingikai/sankoshin/sangyo_gijutsu/green_transformation/pdf/006_s01_00.pdf
P.57の左下に記載があります。
②社会実装 ;すみませんが、現状ではわかりません。
個人的には、DACのコストにより賦課金が決まり、CO2排出者から量に応じた賦課金を徴収して賄うというのがわかりやすいかと思っています。
NEDOで実施されているプロジェクト「ムーンショット型研究開発事業/DAC(Direct Air Capture)の技術動向及び社会実装課題に関する調査」等を引き続き注視していこうと思います。
[参考]https://www.nedo.go.jp/koubo/SM3_100001_00013.html
以上です。